牝馬三冠挑戦物語~アパパネ編~
こんちわ~す。館山速人で~す。
アシスタントの大澄晴香です。今日は短期集中連載企画「三冠挑戦物語」の第3弾です。今日紹介していただくのはどの馬でしょう?
今日は2010年の牝馬三冠馬
アパパネ
を紹介するよ。
新潟記念2年連続2着馬ジナンボーのお母さんですね。
そうそう。今やアパパネもすっかりママになっちゃって。時代の流れを感じるよねぇ~。
それでは、早速本題に入っていきましょう。
クラシック前
この年のクラシックは阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったアパパネが一応は中心視されていたけど「アパパネが絶対的」と言うよりは「アパパネを中心にした混戦」と言うイメージだったかな。
そうなんですね。牝馬三冠を達成するくらいの馬ですから、戦前から圧倒的な存在だったのかと思いました。
牡馬の三冠馬は大体そんなイメージだよね。オルフェーヴル以外のミスターシービー以降に三冠を達成した馬は皐月賞→ダービー→菊花賞と1万円をスタートに単勝転がしをしても10万円に届かないけど、牝馬三冠の場合は逆にメジロラモーヌとアーモンドアイ以外は10万円を軽々と超えてしまう。
牡馬の場合はクラシック前から「あの馬は三冠行くんじゃねぇか?」って言う馬が三冠を達成しているのに対し、牝馬はクラシックが始まってから「この馬、ひょっとしたら」って言うパターンが多いかな。
アパパネの場合は、新馬戦やチューリップ賞で負けていたし、安定したレースぶりは見せていたけど、アーモンドアイのような初心者が見ても凄いとわかるインパクトのある派手な末脚を持っていたわけでもなければ、ジェンティルドンナのオークスのようなぶっちぎりで勝ったレースもなかったから「圧倒的」と言う評価はされにくかった。その分「欠点が少ない」と言う印象もあったけどね。
桜花賞・オークス
三冠最初の桜花賞は前哨戦で敗れたとはいえアパパネが1番人気、クイーンC勝ちのアプリコットフィズが2番人気で3番人気はフラワーCを勝ったオウケンサクラ。
館山さんの本命は何だったんですか?
この年の俺っちはアグネスタキオン産駒でナリタブライアンの甥にあたるセイルラージって言う馬を追いかけていて、そのセイルラージに未勝利戦で勝ったオウケンサクラを評価してこの馬を本命にしていたよ。
俺っちの本命オウケンサクラも良い所まで粘ったんだけど、最後の最後でアパパネに交わされて2着。
ゴール前はアパパネが力でねじ伏せたった感じですね。
そうそう。アパパネの凄い所はここ一番での勝負強さと言うか、単体のレースにおいても競走馬人生を通してみても「決めるべきところをきっちり決める」「勝負所でMAXの力を発揮できる」って言うイメージなんだよね。このレースの最後の50mなんかそのあたりがよく表れているんじゃないかなぁと思う。
で、次がオークスですね。
うん。当時アパパネは母のソルティビットがゴリゴリの短距離馬だったことからくる「距離不安説」や「早熟説」が囁かれていた。
ソルティビットってどんな馬だったんですか?
ソルトレイク産駒の外国産馬でデビューは2003年。札幌でダート1000mの未勝利戦を勝った後、すずらん賞で連勝。暮れにはまだ1200mだった時代のフェアリーSで2着になった後、年が明けて菜の花賞を勝った。
現代の競馬ファンはピンとこないかも知れないけど当時から知る競馬ファンはこの戦績を聞いただけで「早熟の短距離馬」ってイメージが固定されると思う。それくらい「仕上がりの早い短距離向き外国産馬」の典型例と言っても良いローテ。実際ソルティビットも菜の花賞の勝利が最後の勝利になってしまったからね。
今風に言うとどういうローテ、どういう種牡馬の産駒って言うイメージですか?
うーん。最近は外国産馬が減ったからあれだけど、国内供用種牡馬でかつ血統構成を無視して例えるなら福島2歳S→クリスマスローズSで連続好走したヨハネスブルグ産駒って感じかな。
あぁ何となくニュアンスは伝わりました。
そういうバックボーンのある血統だったからかアパパネは1番人気だったけど単勝オッズは桜花賞の時よりも高い3.8倍、ショウリュウムーン、オウケンサクラ、アプリコットフィズの桜花賞上位組が2番人気~4番人気に続き5番人気がフローラS勝ちのサンテミリオン。ここまで単勝オッズ10倍以下の混戦模様だった。
直線の叩き合いは凄いですね。アパパネ、サンテミリオン両者ともに譲らない死力を尽くした戦いって感じがします。で、結局アパパネが勝ったんですよね?
いや、正確には1着同着だね。
G1でそんなことがあるんですね。
このケースが少なくともJRAで行われたG1の中では唯一無二のレースだね。それだけ歴史的なレースだったってわけさ。
三冠のかかる秋華賞
三冠に王手をかけたアパパネだけど秋初戦のローズSは4着と敗れてしまう。
あら。三冠に向けて暗雲が立ち込めるって感じですかね。
いや、アパパネは新馬戦でも春初戦のチューリップ賞でも敗れているからこの頃にはもう「あっ、この馬はポン駆け(※)効かんタイプや」ってみんなうすうす気づいてたからこれで「三冠危うし」とはなってなかったと思うよ。実際ローズSの単勝オッズが2.1倍で、ローズSよりメンバーが揃う本番の秋華賞の単勝オッズが2.3倍とそんなに変わらないしね。
※ポン駆け…休み明け初戦の走りのこと。休み明けに強い馬を「ポン駆けが効く」と言ったりする。IKKOさんに言ってもらいたい競馬用語ランキング第1位。
2番人気が古馬相手に重賞を勝ったアプリコットフィズ、3番人気がオークスを勝った後ぶっつけで秋華賞に使ってきたサンテミリオン、確かこれは狙ってぶっつけにしたのではなく調整遅れでやむなく直行になった形だったと思う(だからこそ、それが不安視されて3番人気だったんじゃないかと)。
このレースでアパパネは終始外を回らされながらも、直線外を力強く抜け出し、アニメイトバイオに迫られてもそこからもう一度突き放す根性を見せて見事秋華賞を制覇!史上3頭目の三冠牝馬に輝いた。
アーモンドアイやジェンティルドンナに比べると派手さなないですが安定感と言うか力強さを感じますね。
個人的にはそこがアパパネの魅力かなと思ってる。
オークスで同着だったサンテミリオンはどうしちゃったんでしょう。
このレースではゲートに頭をぶつけたことで出遅れそれで外傷を追ってレースにならなかったみたい。精神的なダメージもあったのか18着に敗れているよ。繊細な牝馬だけにちょっとかわいそうなレースになっちゃったかもしれないね。
その後
古馬になってからはどうだったんですか?
古馬になってからのアパパネはさすがにその力強さを生かす競馬では牡馬相手ではちょっと苦しくて、牡馬相手では壁にぶつかっていたし、歴史的な背景として前後にダイワスカーレット、ウオッカ、ブエナビスタ、ジェンティルドンナと言った牡馬相手でもG1を勝ってしまうような名牝がわんさかいたから相対的にアパパネの印象は地味になってしまうきらいはある。
とは言え翌年のヴィクトリアマイルはブエナビスタを下して勝利したし、ちょっと牡馬との対戦では相性が悪かっただけで力量的には歴史的名牝と言って差支えのない馬であることは間違いないだろうね。