身震いするほどの激闘~2008年天皇賞・秋~

スポーツを見ていると時に「身震いする名シーン」という現場に遭遇することがある。

松山商業の「奇跡のバックホーム」、新井さんの逆転スリーランで大逆転を締めくくった「七夕の奇跡」、最近ではラグビー日本代表がアイルランド、スコットランドを立て続けに撃破した試合などがそうだろう。

……、いささか筆者の趣味に走った感は否めないラインナップだが、これを読んでいる方も多かれ少なかれそういうシーンはいくつかあるだろうと思う。

今回紹介するレースは筆者の私が先に挙げたスポーツイベントと同じくらい身震いしたレース、2008年秋の天皇賞。このレースはそれまでライバル同士だった2頭が大激戦を繰り広げた熱いレースだった。

戦前の評価は「3強」もそれぞれに不安を抱えていた

2008年の秋の天皇賞戦前は「3強」との見方が強かった。

1番人気はウオッカ。前年牝馬として64年ぶりに日本ダービーを制した女傑。その後なかなか勝てない時期が続いたが、その年の安田記念で3馬身差の圧勝で復活を遂げた。

前哨戦の毎日王冠はやや折り合いを欠く形で逃げる格好となり2着と敗れたが、叩いての上積みと得意の東京コースという事もあってか、ファンは彼女を1番人気に支持した。

2番人気はダイワスカーレット。ウオッカの武器が爆発力なら、この馬の魅力は安定感。それまで10戦して3着以下に敗れたことはなくG1も3勝。ウオッカとの対戦成績も優勢だった。

ただ、このレースは大阪杯以来7カ月の休み明け。東京コースも初めてでいわゆる「3強」と呼ばれる馬の中では不安要素は一番多いとも見られていた。

3番人気はディープスカイ。2歳時は未勝利に甘んじていたが3歳春に急成長を遂げNHKマイルカップ、日本ダービーと立て続けにG1を勝ち、秋は距離適性を考慮して菊花賞ではなくこちらに駒を進めてきた。

しかし、重賞ごとに勝ち馬がコロコロと入れ替わっていたこの年の3歳世代の評価はお世辞にも高いとは言い難く、「古馬相手には通用しないのではないか?」とその実力に疑問符をつける者も多かった。

三者三様、それぞれに不安を抱えたまま、それでもこの3頭が抜けた人気の中、天皇賞のスタートが切られた。

各馬力を出し切れる淀みない流れ

ゲートが開くと一番に飛び出したのはダイワスカーレット。その抜群のスタートセンスでスムーズに先頭に立つ。ただ、休み明けということもあり気負っているのか、安藤勝己騎手が折り合いに苦労しているようにも見えた。

2番手にはオールカマー2着のキングストレイル、函館記念勝ち馬のトーセンキャプテンが続き、ディープスカイは好位の6,7番手を追走。それを見るような形ですぐ外にウオッカがつける形になった。

1000mの通過タイムは58.7。最初の1Fを除き11秒台が続く淀みない流れ。力のある馬がきちんと上位に来ることが出来る平均よりやや速めのペースだった。

3角手前。ダイワスカーレットとしては息を入れたいところで、ウオッカと同厩のトーセンキャプテンが競りかけてくる。

これに関しては、「ウオッカを勝たせるための角居調教師の作戦では?」という声もあるし、「馬主が違うんだからそんなことするか?」という声もある。真偽のほどはわからないが、本来なら少しでもペースを落としてラストスパートに向けての脚を温存したい3コーナーから4コーナーにかけても11.6-11.7とペースを緩めることが出来ず、ダイワスカーレットにとっては厳しい展開となった。

最後の直線。ダービー馬の叩き合いと思われたが…

直線に入ると2番手グループにつけていたトーセンキャプテン、キングストレイルが脚をなくしてふるいにかけられる中、それでもダイワスカーレットは踏ん張っている。外からは2頭のダービー馬が差を詰めてくる。

残り200m地点。3頭ほぼ横一線に並んだ状態だったが脚色では完全に外のウオッカとディープスカイの方が上回っており、勝負は完全に2頭に絞られたかに見えた。

しかしそこからが競馬史に残る大激戦のクライマックスだった。完全に2頭に飲み込まれたと思われたダイワスカーレットが驚異の粘り腰を見せ差し返してきたのだ。

ゴールに近づくにつれてディープスカイはやや脱落気味になり勝負はチューリップ賞からしのぎを削ってきた同期の牝馬2頭に絞られた。馬体を合わせていないにもかかわらず、それでも「相手に前を譲らない」といった激しい攻防はゴールまで続いた。

ほぼ同時でのゴール。その瞬間、東京競馬場は大歓声に包まれた。

しばらくの間をおいて、再び上がる大歓声。それは、東京競馬場の掲示板に1.57.2という勝ちタイムと赤く「レコード」の文字が掲示板に上がった瞬間だった。

漫画でしか見られないものだと思っていた「全馬ほぼ100%の力を出し切った上でライバル同士が火花を散らすような大激戦で決着するレース」その光景が目の前に広がっていたのだ。

「凄いレースを見た。」

みなが一様にそう思ったと思う。

長い写真判定は決して退屈な時間ではなかった

その後の写真判定は決着まで実に10分を超える時間を要した。東京競馬場ではゴール前のストップモーションが映し出される度に歓声が上がり、私もテレビの前で写真判定の結果出るのを固唾を飲んで待っていた。

普段は退屈だったりもどかしい思いで見ているであろう写真判定の時間を多くの人が、馬券の結果を度外視して「どっちが勝ったんだ」という気持ちで見守っていたであろうこの瞬間は不思議な高揚感があった。

レース終了から実に13分後。テレビ中継もエンディングに差し掛かっていたその時、判定結果が掲示板に映し出された。凱歌が上がったのはウオッカ。その差わずか2cm。

ダイワスカーレットファンの私にとっては少々残念な結果になったが、それよりも素晴らしいレースを見ることが出来た満足感で勝者のウオッカを称えたくなった。

いつかまた、このレースを超えるレースを見られると信じて…

このレースに関して言えば、たとえ馬券で1万円くらい損をしたとしたとしても、リアルタイムで競馬場で見ることが出来たならば「観戦料」として元が取れたと感じるくらいの名レースだったと思うし、競馬はギャンブルとしてだけではなく、スポーツエンターテイメントとして面白いものだという事を再認識できた。それくらい素晴らしいレースだった。

この後も、オルフェーヴルとジャンティルドンナの「三冠馬対決」として話題になったジャパンカップ、3歳のチャンピオンサトノダイヤモンと古馬の雄キタサンブラックのデッドヒートとなった有馬記念、前王者アップトゥデイトと現王者オジュウチョウサンの一騎打ちとなった中山大障害……名勝負は数多く生まれてきた。

それでも、私にとってこの時ほど胸が熱くなったレースはないし、いまだにこのレースが私の中ではナンバーワンであり続けている。

いつの日かそのナンバーワンが入れ替わることを期待しながら今週末の天皇賞を楽しみに待ちたいと思う。

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