叶わなかった”同門対決”~(俺は)名馬(だと思う)物語~
「本来戦うことがないはずの者同士が相対する」と言うシチュエーションは見る者を熱くする”何か”があるような気がする。
高校時代のチームメイトが相まみえた清原VS桑田のオールスター、優勝決定戦でしか実現しえない貴乃花VS若乃花の兄弟対決、本来同じジム同士だから絶対に対戦しえないのに、そのボクサーと対戦したいがためにジムを移籍までした宮田VS幕の内一歩………、
現実であれフィクションであれ、本来交わるはずがなかったり、交わってはいけない者同士の対戦など「見られるはずのない対戦」が目の前で繰り広げられる高揚感からか、何とも言えず心躍るものがある。
2001年のクラシックも「本来対戦する必要のない」馬、同じ騎手、同じ厩舎、同じ勝負服の2頭の対決が期待されていた。
同じ週にデビューした同馬主、同厩舎、同騎手の2頭
2000年12月頭、第5回阪神開催の開幕週。当時は”同一開催内であれば新馬戦に複数回出走可能”と言うルールがあったため、開幕週にデビューを持ってくる馬が多かった。
特にこの週の阪神芝2000mのレースは、フサイチコンコルドの弟ボーンキング、第1回セレクトセールでその競り最高価格となる1億9000万円で落札されたアドマイヤセレクト、南関東の名牝ロジータの子リブロードキャスト、鳴り物入りで種牡馬入りした”奇跡の馬”ラムタラの子メイショウラムセス等数多くの評判馬が出走することで話題になっていた。
そのレースを制したのが、後の皐月賞馬アグネスタキオンである。
アグネスタキオンはスタート直後こそ後方からレースを進めたものの、3コーナーから4コーナーにかけて抜群の手応えで先頭に並びかけ、直線追いだすとあっという間に突き抜けての3馬身半差完勝。翌年のクラシックを意識させるのに十分な勝ちっぷりであった。
そしてその翌日、今度は芝1600mの新馬戦で全く同じ勝負服、同じ騎手の馬がデビュー戦を飾る。その馬こそが今日の主役アグネスゴールドである。
アグネスゴールドの新馬戦もまた、インパクトの強いレースだった。
直線入り口まで後方でレースを進めると、追いだすと一気にトップスピードに鮮やかに差し切ってみせるレースぶりは、末脚の”鋭さ”を強く印象付けられるもので、この馬もまた「確実にクラシック戦戦に乗ってくるだろう。」と確信した。
盛り上がるクラシックロード
1月末の若駒Sでも鮮やかな差し切りで連勝を決めたアグネスゴールドは3戦目のレースに初めての重賞きさらぎ賞を選択する。
このレースには前年の京都3歳Sを無敗で制していたシャワーパーティーやききょうS、野路菊Sとオープン連勝中のダンツフレーム、シンザン記念を制したダービーレグノなど素質馬が多く出走してきたが、その中でもアグネスゴールドは単勝2倍を切る1.9倍の指示を受けていた。
それだけの支持を受けてなおアグネスゴールドはこれまでの策を崩さず後方待機策。3、4コーナーで大外を捲ってやや先頭に集団と差を詰めると、残り300m付近で一気に加速。あっという間に先頭を飲み込むと、その末脚に何とか半馬身差で追いすがることが出来たのはダンツフレームだけ。ダンツフレームとて「盛り返す」という雰囲気はなく、どこまで行ってもその「半馬身」の差がひっくり返るようには見えなかった。
アグネスゴールド3連勝。そして、この辺りから人々は考え出す。「河内洋はいったいどちらに乗るのか?」と。
当時アグネスタキオンもラジオたんぱ杯3歳Sで後のG1馬クロフネ、ジャングルポケットと激突。いまだ「伝説のG3」を言われるそのレースを完勝したことでクラシック候補の最右翼と目されていた。その鞍上もまた河内洋。
両方がクラシックを目指すのならば、どちらか一方を降りなければならず、その動向に注目が集まっていた。
それと同時に「タキオンとゴールド一体どっちが強いんだ」と言うトピックはただでさえサンデーサイレンス・ブライアンズタイム・トニービンの3強種牡馬それぞれに有力馬がいる上外国産馬も絡んで例年以上に熱を帯びていたクラシックの盛り上がりをさらに過熱させるものとなった。
「ついに激突!」するかに思われたが
選択を迷っていたであろう河内騎手に陣営も配慮したのか、皐月賞への前哨戦はタキオンが弥生賞、ゴールドがスプリングSと使い分けられることになる。これもまた「皐月賞で同門のライバルがいよいよぶつかる」「その時河内はどちらを選ぶのか」と人々をワクワクさせるのに十分な材料だった。
弥生賞でアグネスタキオンが不良馬場の中5馬身差ぶっちぎった2週間後。アグネスゴールドも同じ中山のターフに登場した。
この時の単勝オッズは1.4倍。これまた圧倒的な支持を受けたアグネスゴールドは直線の短い中山コースを意識してかいつもより少し前、中団よりレースを進める。道中はじっと内で脚を溜めると、直線はスッと比較的馬場の良い外に持ち出すと、やはりと言うべきかいつものように鋭い脚を使い差し切り勝ち。
同厩舎、同馬主の無敗馬2頭がついに皐月賞で相まみえる!その時河内洋はどちらを選ぶのか!と私の中でも盛り上がりが最高潮に達した時、無念のニュースが飛び込んでくる。
アグネスゴールド、骨折。
春のクラシックは全休となり、その間にアグネスタキオンも皐月賞後に屈腱炎が判明。そのままレースに復帰することなく引退となったため、「同門対決」は幻に終わった。競馬に「たら、れば」は禁物なのだけれど、それでも「この対決が実現していたら」と今でも思う事があるくらい口惜しい出来事だった。
今なお続く「Agnes Gold」の物語
その後、アグネスゴールドは秋に復帰後3戦し勝利を上げられないまま引退し種牡馬入り。アグネスタキオン、マンハッタンカフェ、クロフネ、ジャングルポケットなど同期のライバルたちが種牡馬入り後も華々しい活躍を見せる一方、アグネスゴールドは日本で目立った産駒を出すことが出来ず、2007年にはアメリカへ移籍。このまま血は途絶えていくかに思われた。
しかし、2008年から供用されているブラジルで、G1馬を複数輩出。競走馬デビューから20年経った2020年においても、産駒からブラジルのリオ牝馬三冠に王手をかけたマイスキーボニータや、アルゼンチンで「怪物」と噂され、2020年アメリカデビューが決まっているイヴァール(Ivar)などその血脈は現在進行形で活躍中だ。
日本にもブラジルでG1を勝ったサイレンスイズゴールド(Silence Is Gold)が輸入されており、近い将来血統表に「Agnes Gold」と記載された馬がクラシックで活躍、いや、もしかしたらケンタッキーダービーのようなアメリカの大レースで「Agnes Gold」の血が入った馬の活躍が見られるかもしれない。
あの年のクラシックで「タキオンVSゴールド」の対決を夢見た人間としては、そんな日が来るのを楽しみに待ちたいと思う。
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